意識的にはコントロールできない,モティリティ  (不随意的な自発的微細動)を身体の各組織で引き出していきます。このモティリティが身体に行き渡っているとき,可動域が単に大きいとか,特定のポーズが達成されるということよりむしろ,動きのクォリティが向上します。身体は水が豊富に含まれる細胞一つ一つの集まりによって構成されているので,健康な状態であればあるほど,流動性があります。モティリティと流動性を引き出すことと,それが重力下でもうまくコーディネイトされた機能的な動きが可能なように,脳幹や辺縁系に刻み込まれたパターンに囚われない,新しい動きを選択できる手助けをします。また,過去の事故や怪我による組織的な制限を解放することも身体の自由度を引き出すのに必須です。これら一連のワークは,繊細なタッチにより達成されます。

それでは,おおまかな田畑のロルフィングシリーズの流れを以下に示します。

The 1st hour

ご記入頂いた健康に関する質問票について,お聞きします。現在気にならない程度に治癒していても,過去において受けた衝撃やその事故の状況についての情報が,有力な情報になることがあります。セッション前後の写真を撮って,変化を追跡していきます。
ファーストセッションでは,全体を把握するため,情報収集をしながら,呼吸の伝わる動きの連続性を引き出しながら,特に関節に注目しながら,全体にかかっている圧縮を解放し,無理のない呼吸を引き出していきます。また,身体が広がるような変化には,身体を安全に委ねられる"yield"の感覚が必須となります。この基本的な動きは,胎生学及び発達段階でも重要で,この能動的な動きが基本となって,様々な動きのバリエーションが生まれていきます。yieldが確立されると,反射的に外界に対して広がろうとする方向性を思い出すと考えています。この誘導には,γタッチと呼ばれる空間的で双方向のタッチが必須となります。以上のワークにより,楽に深く息が流れ込んでは出て行くクオリティの高い呼吸が引き出されることでしょう。

 2nd hr

2回目のセッションでは,通常身体の支え=サポートを充実させることに時間をとります。その為に,身体の礎となる足の機能を引き出します。機能的な足裏のアーチは,疲れにくい歩行につながります。足底部の骨の再配置を靱帯のバランスを通じて整えたり,骨と骨との間の空間を拡げることで,支えやすい状態を造りだします。踵のみならず,膝や股関節との連携のとれた動きができるように動きの再教育をしていきます。足/脚の支えの充実が,腰や脊柱の負担を軽減することにもつながります。このワークにより,疲れにくい楽な歩行のための基礎ができます。
前回セッション後からどのように変化したかを知るために,セッション後だけでなくセッション前にも写真を撮ります。セッション直後どれだけ変わったか?ということより,そこからどのように経過したか?がとても大切です。

3rd hr

2回目のセッションで得られたサポートによって,上部の内臓空間が広がる準備が整っています。可動性のある肩と腰がテーマです。必要に応じて,個々の内臓器官にも働きかけます。例えば,横隔膜と胃や肝臓との連携やそれぞれの器官自体の微細な動きを増幅します。四肢の動きに応じて,内臓空間の中身がそれに応じた動きがなければ,クオリティの低い動作になってしまいます。呼吸に関しては,1stセッションが上方への広がりを引き出したのに対して,横方向への広外を主に扱います。このことが,左右の知覚空間を拡げ,横隔膜がよりダイナミックな動きを可能にし,さらに呼吸のクオリティを高めます。

以上の3セッションでは,表層だけに働きかけるようなベーシックな方法論ではなく,必要に応じてコアや内臓器官特異的に扱うこともしていきます。変化を強いるのではなく,一貫して,身体からの変化を聴くことにより,初段階でコアに働きかけても安全に変化を引き出せます。

 4th hr

骨盤底と呼ばれる筋肉群は,内臓を底辺で支え,泌尿器/生殖器系の器官とも密接に関連しています。またその周辺には,hypogastric phrexusという神経節(神経の集まり)があり,神経生理学的にも重要です。また,尾骨の自由度は,脊柱全体と骨盤の自由度にも大きく影響します。骨盤骨格内構造を靱帯や深部筋肉構造を通じて,調整します。女性の場合,出産による歪みがこれらの構造に負荷を与え,それが長期に渡って悪影響を及ぼすことが珍しくありません。明らかに出産体験後に変調を生じた場合は,シリーズの早い段階にもってくることが功を奏する場合もあります。
骨盤底のサポートが確立することによって,呼吸がさらに下腹部にもしっかり伝達する動きが可能になり,いわゆる丹田やハラの感覚が高まる助けになります。


5th hr

腸腰筋がいかに機能的に働くかが,あらゆるパフォーマンスの要になります。そのためには,シリーズを通じて得られたサポート構造,骨盤底,股関節,仙腸関節等の可動性が積み重なってはじめて,腸腰筋に点火されるものです。また,消化器系の内臓が微細な動きを取り戻すことで,腸腰筋の動きに質的変化が得られる場合もあります。器官と筋肉は別個に存在するわけではなく,互いに結合組織によってシームレスに繋がっています。
3rdセッションで得られた,ガードルの動きがよりコアからのものになるよう,連動させていきます。

6th hr

他の様式で重視されるように確かに脊柱の配列は重要です。それらが部分的に圧迫されることが,椎間板ヘルニアに見られるように神経を刺激することによって,全身の神経系に悪影響を及ぼします。また,微細な動きで知られる脳脊髄液の循環にも脊柱の構造は関係が深いといえます。しかし,Rolfing®で重視するのは,単なる直線性や歪みやねじれではなく,柔軟に前後左右に揺れる動きだったり,適時回転できる機能性です。そのためには,背骨だけを操作するよりも,まず内臓空間が十分に広がりを得た上で,圧縮から解放されていることです。これまでのセッションでそれが達成されているかどうかを確認する必要があります。腸腰筋同様に,例えば腎臓やその周辺に制限があると,脊柱が柔軟に動くことはできません。
空間的な広がりや内臓自体の制限が解放された後,脊柱の生体力学的なアプローチが生きてきます。

7th hr

消化管の一部としての頭部と神経学的な頭部とをまとめます。そのためにマウスワークとノーズワークを通常行います。具体的には使い捨ての手袋をして,顎周辺や口の床と天井に働きかけます。鼻腔から頭部全体に広がりを引き出すのは,Rolfingにきわめて特徴的なことで,極めて珍しい体験となると思いますが,ワークする意義は大きいです。一例だけで一般化はできませんが,このワークによって副鼻腔炎が根治した方もいらっしゃいます。頭部を,まるで浮遊するような状態に落ち着くように促すのが機能的ゴールです。
頭部に様々な衝撃を過去受けている場合は,頭部の流動性を引き出す必要があります。鉗子分娩や出生時の負荷がその後影響を与え続けることも珍しくありません。一方,帝王切開でお生まれになった場合は,産道を通過する過程で頭蓋が物理的圧力を伴った接触がないために,特に上方への方向性に対する感覚が薄いケースもあります。こうした例にとっても頭蓋への働きかけは重要になってきます。

上記の4〜7セッションの順番を入れ替えることも多々あります。身体が変化を受け容れやすいところから入っていくことが,身体にも優しく,変化も大きいのです。

8 - 9th hr

1〜7th セッションで一通り全身をワークしたところを下地にして,結合性や連携をひきだすのが目的です。コアやセントラルラインからの動きが,うまく連動するためにはどうしたらよいか?クオリティの高い動きをもたらすにはどうしたらよいか?尽きることのない探求とともに,その人そのものを観ることが要求され,個々に創造的なセッションになります。
この8th 以降のワークにより,バランスの持続性が確かなものとなります。

Option

 ほとんどのケースにおいて,10回を通して完結するのが一般的ですが,例えば,過去の手術やアクシデントによって受けたダメージが大きい場合には,2,3回のセッションを追加することもあります。

10th (Final) hr

 いよいよ最終段階のまとめです。各部位の水平性を確立しながら,脊柱の前後左右,回転する動きを引き出します。完了するためには,統合への変化がうまく続いていくように,もう一度,モティリティが身体全体に行き渡っているかを確認し,つながりのための微調整を行います。最終的にContra-lateral movementと呼ばれる,脊柱に前後左右の揺らぎと適度な回転運動が伴うような歩行が引き出されることを指標としています。受け手が,自らのバランスの責任を取り直すためにも,シリーズをクローズすることがとても大切です。シリーズ完了後も,変化は,4〜6ヶ月かけて続きますので,その間はその変化を見守って頂きたいと思います。






ロルフィングシリーズ終了後,探求を続けたい方へ

Rolf Movement Integration

身体を快適エコドライブ

自動車を快適かつ燃費よく走らせるには,車本体の性能と整備の重要性に加え,ドライバーの技術と意識もまた大切な要素です。同様に,身体も構造が整うだけではなく,これをドライブする側の意識と操作性能が同時に向上しなければ,車体である身体のパフォーマンスを引き出すことができません。コンピュータに例えると,CPU等のハード面の強化と同様,基本ソフトであるOSもまたバージョンアップする必要があります。このハード面あるいは,車体の性能をアップするのが,ロルフィングの主眼とすると,ソフト面,つまりドライバーの教育がロルフムーブメントで行うことです。

なぜ,上達しないか?

様々な,エクササイズやヨガ,ピラティスなど地道に長い年月続けていても,さっぱり上達しない!?そんな経験はありませんか? いろんなエクササイズは,大抵の場合,上でいうところの応用的ソフトです。フォトショップやホームページビルダーをバージョンアップしたけど,速度がイマイチ。マシンを変えるのも一つの手ですが,OSを変えてみてはどうでしょう? マシンの性能を最大限に引き出すためのOSでなければ,せっかく入れた最新ソフトもうまく動くことはできません。これと同様に,ロルフムーブメントは,身体の基本のOSをバージョンアップさせてくれます。まず,基本的な動作である楽に立つ,座る,歩く,これらの動作がスムーズにできているでしょうか?これらの動作のクオリティは,意識的にはコントロールできない抗重力筋のコーディネイションを変える必要があります。この重力との関係性を改善させることができて,はじめて応用的な動作が可能になるのです。それを抜きに,応用的な動作を反復しても,労多くして功少なしという事態が長く続くことになります。

そこで,,,

受けてみませんか?ロルフムーブメント。ロルフィングを受けていればなお効果的ですが,受けていなくても大丈夫。肌から直接働きかける必要はないし,圧力に依存しない繊細なワークですが,体験は深く,構造も変わります。身体の基本OSを刷新して,それから,応用的なエクササイズをしてみてはいかがでしょうか?その方が上達を早め,怪我も少なく済むと思いますよ!