膝や股関節に問題がある方へのRolfing®とRolf Movement™

ロルフィングは,固定したり,悪いところを除くという医療処置的な発想とは異なり,身体を統合して,全体性を回復するための技法ですが,副産物として様々な違和感や慢性的な痛みが軽減することがよく観察されます。一流のアスリートやオリンピック競技者が,パフォーマンスの向上だけでなく,怪我やスポーツ障害の予防にRolfing®やRolf Movement™のワークを役立てています。

重度の膝の故障を抱えた例

Before Rolfing :50代女性。過去にテニス歴,ウエイトリフティングが趣味。左関節に慢性的痛み。膝の可動性は,90度以上屈曲不可で,伸展は膝裏に拳大の隙間が生じる程度にしか伸ばすことができない。整形外科,スポーツ整形,膝専門医を含む5つの大病院で,X線やMRIによる解析から,どの医師も膝関節の改善は不可能との診断。歩行困難となった場合には,人工関節を勧める所見もあったとのこと。 左膝関節の可動域が極端に狭いため,左足を伸展したまま引きずるような歩行様式。消炎鎮痛剤の常用とヒアルロン酸の関節注射を高頻度で行っていた。

ワークの意図と介入:
ワークに関しては,比較的基本的な10レシピに沿って行った。 深刻な痛みが,膝と背中にあったものの,1回目 セッション後呼吸が背中に入ることで痛みはかなり軽減した。 シリーズが進むにつれ,Lumber lordosisに長さが生まれ,下肢のサポートの質に変化がでてきた。4回目で,midlineのサポートが充実し,受け手自身にその感覚がでてきたことが,重要だったと思われる。8回目以降は,下肢のコーディネイションを引き出すムーブメントワークを多用した。また,足/膝のサポートの仕方が急激に変わることにクライアントが順応して新しいバランスを見つけやすいように,膝に対して,counter rotationの動きを教育することが有効であった。つまり,膝が屈曲する際に大腿骨は外側に回転し,頸骨は内側に回転するという動き(膝にとってのnormal motion)を入力すること。その動きの教育を,まず,仰向けで受動的にそのcounter rotationの動きを数回与えてから,立って歩く動作に移ってもらうことで,転倒せずに安全に新しいバランスを見つける手助けとなったようである。クライアントは,シリーズ進行中でも,日常の中でウエイトリフティングを継続し,スポーツマッサージも受けていたが,それらが,プロセスの妨げになったという印象はなかった。また, シリーズ中に知的レベルでの理解のために解剖運動学的情報は提供していないので,タッチによるインプットのみで,変化が定着したものと考えられる。ウエイトリフティング時の身体の使い方に由来すると考えられる背中を反らせるパターンは, 10シリーズ後のロルフムーブメントにより,リセットされている(写真.参照)。Lordosis全般を包括的に捉え,膝関節への動きの教育が機能を回復する上で重要だったと考えられる。




After Rolfing: 膝の屈曲はしゃがむ程度に曲がるようになり,仰向けの状態で膝をほぼ真っ直ぐにすることが可能となった。左膝下の改善が顕著で,痛みがほとんど消失し,両脚の力を同様に使って歩行することが可能。階段も普通に下ることが可能となり,鎮痛剤の服用も不要になる。Rolfingシリーズ終了後3ヶ月経過しても効果は持続されていた。 開始前と10回目の後で比較すると顕著にサポート様式に違いがでているのが分かる(写真)。さらに10回目終了後に15週間経過した後もバランスの持続性が認められる。

ご本人の感想(抜粋):
どうしてももう一度テニスをやりたくて、T大病院をはじめ、N赤、◇R病院など大きな病院の整形外科、スポーツ整形などを5つも受診してまわって、中には膝専門と言われる医者もいましたが、どの先生もレントゲン、MRIの画像を見て、この関節はもう改善不能で悪化の一途をたどるしかないだろうから、あとは無理をしないで大事に使って、年をとって歩けなくなったら人工関節にするしかない、と悲観的な診断ばかりでした。もちろん膝の治療のためにロルフィングのセッションを受けていたのではありませんから、膝の症状が改善されたことは、私にとっては、予想外の嬉しい結果になったと言えます。ご本人の体験記→ 詳しく

半月板除去術を受けたセミプロフェッショナルのサッカー選手

Before Rolfing: 20代女性。セミプロフェッショナルのサッカー選手。歩行時に慢性的痛み有り。両膝の半月板の完全除去術を行っている。サッカーのプレイ中にはさらに痛みが大きく感じられるとのこと。


ワークの意図と介入: 初回のセッションは,膝を中心としたサポートに焦点を当てた。膝関節内のdecompressionが起きるように,Lordosis全体のyielding。その膝内部に拡がりがある状態で,toe hingeやankelのムーブメントワークを行う。サポートにおける膝への信頼ができると共に,歩行時の痛みが消失した。2回目は,hip jointに焦点を当てた。つまり,身体全体がyieldされた状態で,関節内に生じるmotile responseに従うことで再配置された。タッチしている関節を通して,全体の関節との関連性を引き出すことが重要だと考えられる。クッション材としての半月板が全くない状態でも,関節面に対して均等に負荷がかかることで,日常生活レベルで膝痛から解放される可能性があることが示された。

After Rolfing : 一回目,2回目のセッションで歩 行時には痛みを伴わない状態に回復した。膝の支え方がバランスされていることが観察できることから,負荷が軽減されたのではないかと推測される。

人工股関節置換術と膝の半月板除去術を受けた関節リューマチに罹っている例

Before Rolfing : 左股関節に人工股関節置換術,さらに左膝には半月板除去術が施されている。膠原病からくる関節リュウマチにより,全身に痛みのある60代の女性。医師からは,股関節が外れるリスクがあるため,股関節を開く動きをしないように強く指導されているためか,過度に内側で支えようとする傾向が認められた。写真のBefore 1のデータが示すように,左股関節への信頼がなく,サポートがないことがわかる。歩行も不安定。


ワークの意図と介入:
1回目のセッションでは,左股関節が現状より支えやすい位置に配置されるように,motile responseにlisteningしながら,repositioningを行った。また,膝に対しては,ケースBと同様のアプローチ。仰向けで立て膝の姿勢で,自己イメージよりも少し外側で支えられる安全で可能な位置があることを体感してもらうワークも有効でだった。1回目のセッション後に,左下半身のサポートが充実し,一週間経過後もバランスの維持が確認されている。前後のバランスは,1週間経過後の方がむしろ骨盤に水平性が得られているのがわかる。全身に痛みがあるということもあり,シリーズを通して,用いる圧力は最小限にして,Yieldingによる安全な環境とmotile responseに従う極めてgentleなムーブメントのみを用いた。


After Rolfing : 両脚のサポートが充実し,コアも充実している。ご本人の感想としては,元気になったとのこと。歩行も安定し,Contralateralな動きも引き出された。また,3回目の後,ご本人の都合により,4回目まで約5ヶ月の間隔が空いたが,その間も左半身のサポートは維持され,統合への変化が継続していたことが分かる。

Rolfer’s Note:

上記3つの実施例ともに,supportの充実がテーマであり,そのために関節のdecompressionとムーブメント教育が有効であった。また,変化が全体と調和するのに十分な時間を確保した。また,自己調整機能が機能しやすい環境,つまりyieldingが十分引き出されるような場を提供した。このことが,クライアントがリソースに繫がり,内側からの自発的なdecompressionを引き出すことにも繫がった。どのケースも故障や痛みが広範囲に認められるので,圧力に依存せず,特に故障箇所の変化を強要しないことに注意を払った。また,セッションの最後,立ちあがるまでに,念入りにトラッキング等,重力への適応の為に統合の時間を十分とる必要があった。

最後のケースに関しては,クライアントの娘さんが,こちらで主催するムーブメントワークショップに参加した後,継続的に家庭内でお母様へのワークを行っているとのこと。自己免疫性疾患のような長期のケアが必要なケースに対しては,こうした家庭内でのケアも視野に入れたサポートが重要かつ有効となってくると考えられる。



上記の方々が様々な医療処置をお受けになる前に,ロルフィングという選択肢が目にとまるような世の中にしていきたいと強く思います。